Dear

アスファルトに涙が染みる。 
そこから咲く花は、何故か君に似ている気がした。 


[ダンデライオン] 


あの日この気持ちを伝えていたら、今こんな風に悲しくなかったかな。 
過去に縛られて、思い出に浸る恋が、こんなに辛いと思わなかったよ。 
どうして君は何も言ってくれなかったの?ずっとそれだけが言いたくて。だけど伝える術なんて私にはない。 
最期の日に君が置いていった手紙を、私は毎日読んで抱き締める。 
僅かな君の匂いや温もりでも欲しかったから。 
だからお願い、温もりまで私から奪わないで。 

君に「明日ね」って言ったとき、もしかして辛くて仕方なかったの? 
その歪んだ顔の原因が、今なら分かる。 
あの時先延ばしにしていなければ良かったのに。私は何も知らなかった。 
君が教えてくれた愛すら、何も分かってなかったの。 
私、君が死んでしまった後に皆に聞いて回った。でも君は一人を除いて、誰にも自分のことを言わなかったんだね。 
徐々に減っていく面会時間の中、友達は君のそばに居たらしい。しきりに私の心配していたって聞いたよ。 

やっぱりあの時気付くべきだったんだ。会える日が減っていたことに。(そう簡単に外出許可なんて出ないもの) 
会えば寂しそうに頭を撫でることに。 
抱き締めることが無くなったことに。(やせ細ったことを悟られないためでしょ) 
おばさんの赤い目に。(人知れず泣いた跡ね) 
少し高価なネックレスに。(最後の誕生日プレゼントのつもり?) 


全て終わったあとに気付いたこと。もう私は一人なんだって。 
同じ季節をたった2回過ごしたくらいで、私たちの思い出は成り立っていた。 
旅行先に部屋で夜更かしして皆で遊んだ夏も、大勢でパーティーをした最後のクリスマスも、君の存在が濃く刻まれているんだよ。 
罰ゲームのキスの味だって、まだ色褪せてはいないのに。 
君は「思い出を持っていく」なんてかっこつけて。君が一人で拾って持っていけるほど、薄っぺらい思い出なんてないのに。 
私だけじゃなくて、友達全員の心に刻まれているんだから。 

「何年経っても忘れてなんてやらないんだから」 
君と撮った写真の前で、私は口を尖らせた。 
『Brand New Season』――新しい季節を、私の心に強く刻みつける。 
それが居なくなった君への、私なりの愛情だから。 


アスファルトに咲いた黄色い花。獣の王の名をしたその花は、何故か君に似ている気がした。