Powder of Fairy

朝になれば起きてくる。太陽の明かりが花を照らせば、葉の裏から見えるのは小さな小さな、妖精? 
僕は数ヶ月前にここで捨てられたら人形、ルアンナ。僕の隣でいびきをかいて寝てるのは、風の精のトリル。ちょっと遠くでふらふら飛んでるのは、水の精のフェルト。トリルは妖精の中でも体が大きくて、体力があって力強い。だからどこまでも飛んでいける。背中には膜のような薄い羽が生えているんだ。 
フェルトは小柄だけどすばしっこい。女の子みたいな男の子。背中には珍しい蝶のような羽が生えている。 
僕は金髪でちょっと小柄なマリオネット。小柄と言っても妖精よりもかなり大きい人形だ。 
僕以外はみんな妖精で好きな場所に飛んでいけるんだけど、僕のために傍に居てくれるんだ。 
みんなとは、追いかけっこしたりお喋りしたりして過ごしている。そんなある日、新人さんがやってきた。 
「あのー……」 
申し訳なさそうに僕に問いかける、妖精らしき彼。 
「何?」 
「この辺に枯れそうな花があるって聞いたんですが、知りませんか?」 
女の子のような見た目に、笑顔が良く映える。背中には童話に出てくる妖精の羽が生えていた。(ティ●カーベルみたいにキラキラしてるんだよ) 
その妖精はきっと花の精なんだろう、枯れそうな草木の寿命を伸ばすのは花の精にしか出来ない技だから。 
「あっ、俺は花の精のシューレルです。」 
「はじめまして、シューレル。僕はルアンナ。ごめんね、花の場所分からないや。でももしかしたら、トリルが分かるかもしれない。」 
僕がトリルの名前を出すと、隣にすぐに現れた。 
「聞いてた聞いてた。その花なら、あっちの木の根元にあるよ。」 
トリルが大きな羽を羽ばたかせて飛び上がる。勿論僕の手を取っていくから、僕は宙ぶらりんだ。どうして自分よりかなり大きい人形の僕を持てるのか不思議だよね。 
シューレルも羽を小刻みに動かして飛んだ。僕たちはすぐにその花の元へ行くと、ふらっと何処かへ行っていたフェルトが帰ってきた。 
「あれ、新人さん?」 
「シューレルです。花はこれですね。」 
挨拶はそこそこに、シューレルは腰にぶら下げていた袋から煌めく粉を掴んで取り出すと、花の上に振り撒いた。 
「妖精の粉じゃん!」 
叫ぶフェルトに、僕はそれ何?と聞く。答えくれたのはトリルだったけど。 
「妖精の中でも、あれが精製出来るのって数少ないんだ。俺やフェルトだって一ヶ月でちょっとずつしか作れない。でもシューレルは凄いな。」 
「妖精の粉を掛けるとね、花が元気になるんです。妖精も病気になったときにこの粉を使うんです。」 
振り掛け終わったシューレルは僕の隣に降り立って言った。 
「俺は沢山精製出来るんですよ。」 
「綺麗だな。」 
「舐めてみます?」 
シューレルは手に粉を乗せると、はいと手を差し出した。指先で摘まんでから、口に入れてみる。 
「……甘い。」 
「美味しい?美味しい?」 
僕の周りを煩く飛び回るトリルを一喝してから、シューレルに微笑む。 
「美味しいよ、ありがとう。」 
「いいえ。」 
「シューレルはこれからまた別の場所に行くの?」 
興味本位で聞いてみたら、悲しそうに眉を八の字にして頷いた。 
「はい、まだまだ枯れそうな花は沢山ありますから。」 
「また来てね。」 
僕もトリルもフェルトも手を振る。折角会えたんだから仲良くしたいもんね。 
「はい。」 
「敬語じゃなくていいからね。」 
「あ、うん。じゃあまた。」 
元気良くシューレルは手を振ると、妖精の粉を羽から振り撒きながら飛んで去っていってしまった。 
「行っちゃったな。」 
「また来るといいね、ルアンナ。」 
「そうだね。」 
再び綺麗に咲き始めた花の縁に指を添えて僕は応えた。 


「ルアンナ、」 
「!?」 
「戻ってきちゃった。」 
振り向くと、暫く見なかった彼の照れた笑顔。シューレルはいつの間にか戻ってきたみたいだった。 
「シューレル!」 
僕が叫ぶと、トリルもフェルトも文字通り飛んでくる。二人が思い切り抱きつくから、シューレルは少しよろめいた。 
「お帰り、シューレル。」 
「ただいま、みんな。」 
幸せそうな笑顔でそう返してくれたとき、僕も幸せな気分になった。これも妖精の粉のおかげかなって。 
「何で戻ってきたの?」 
「休暇中なの。」 
フェルトの淹れた紅茶をみんなで飲みながら、談笑。シューレルは紅茶を飲んで「美味しい」って言って笑ってくれた。 
「また何処か行っちゃうんだ?」 
泣きそうな顔でフェルトが呟く。それにつられてシューレルも泣きそうになる。 
「ううん、もしみんなが良ければだけど、一緒に行こうよって言いにきた。」 
「行こう!」 
トリルは大声で言う。僕はちょっと窘めて、考えた。僕は飛べない、まさかずっとトリルにお世話になるわけにもいかないし、かと言ってトリルが居なかったら戻れないし何処にも行けない。 
「ルアンナ、俺がちゃんと連れていくよ?」 
「悪いよ。」 
「今更何言ってんだよ、散々足にしといてよ。」 
「それもそうだね。」 
トリルもフェルトも、目を輝かせてこちらを見ている。僕の最終決定を仰ぐつもりなんだな。僕も色んな場所や色んな花を見て回りたい。だから…… 
「僕たち、シューレルと一緒に行きたい。」 
「ありがとう、嬉しい。」 
やった!と三人は舞った。妖精が踊ってるって美しい。 
「行こう、ずっと四人で居よう。」 
「これからの楽しい毎日に乾杯!」 
四つのコーヒーカップが、鮮やかな音を立てた。