冬より春が好きなんです

最後その手を離したのはいつだろう。
遠い記憶の彼方に
その手の温もりがあった。

最後にその声を聞いたのはいつだろう。
遠い記憶の彼方に
その声の優しさがあった。

最後にその笑みを見たのはいつだろう。
遠い記憶の彼方に
その笑みの心があった。


触れ合って
触れ合わなくて
それで温もりを通わした。

そんな日々は今日から数えて幾つになるか?
掴み損ねたシャツの裾は
綺麗に君に着られてる。


君が好きと言った季節とおんなじ季節だよ。
僕が好きと言った季節とおんなじ季節だよ。
それでも桜は散っていくんだ。

寂しいよ、今まであった隣が無いと。
寂しいね、もうその定位置は無いの。
そこの空いたスペースは僕のものなのに。

新しい世界に踏み出すはずが
僕たちはとんでもない世界に行ってしまったようだ。
過去へと遡っていくばかり。


声や笑い方すら忘れてしまって
似てるようで全く違う僕らには
今や何が残されたのだろう。

せめて移ってしまった癖の一つくらい
この身に染み付いて離れないで
君とを結ぶ架け橋になればいいのに。

君に感化された絵文字が、
どれだけ君と一緒に居たかを物語るから
メールすら辛いよ。


手を伸ばしても掴めない友情も愛情も
果たして僕たちは欲していただろうか、
いやただの日常が欲しかっただけなのにね。

一人で良いと強がった挙げ句の果てには
やっぱり淋しいと駄々をこねる。
子供みたいでしょう?

今まで余裕ぶっていたの。
大人のように振る舞って、
それが当たり前だと思ってた。

そして僕たちは子供らしさを
いつの間にか何処へやら
捨てていっちゃったんだ。

その時に大事なものも全て捨てた。
僕は君を、君は僕を
それぞれ犠牲にしてきたんだ。


でも見てごらんよ、
僕たちの季節が来たから
僕たちのことを思い出そう。

何も無かったかのように
寒々しい冬なんて来なかったように
再び桜は咲き誇るのだから。