夏とアイスキャンデー、又の名を「デート」

振り返って彼を呼ぶ。
「あれ食べたい。」って可愛らしく言うの。そうすれば何でも許してくれる。甘い声と涙は女の常套手段。
そんな彼も数分後にはちゃっかり右手にアイスを持ってるんだから。青色が鮮やかなソーダ味。私のはオレンジ味。互いに互いのアイスを味見して、「美味しいね」って笑いあう。
こんな図は私たちだけじゃない。周りを見渡せば、皆そうしてる。カップルだらけの広場、彼らは空いたパラソルの下で強い日差しを避けながら物を食べてる。
ポタ、と溶け出したアイスが地面に染みを作る。服の上じゃなくて良かったって安堵。
舐めてたら早くは食べられないから、シャクシャクと音を立てて食べる。冷たさが歯に染みて、一気に涼しさが増す。
隣を見たら彼は既に食べ終わってて、私をにこやかな表情で見ていた。
「何?」と聞けば、「何でもない」と答えるのだけれど。

「次はどこへ行こうか。」お店が建ち並ぶ場所。今はちょっとお腹いっぱいだから、私も彼も大好きなインテリアを見に行こう。その旨を伝えればまた受け入れてくれるの。
「良いね、行こう。」すい、と差し出された右手に、私の小さな左手を重ねてぎゅっと捕まえる。人混みが凄いから迷子にならないためね。
オシャレなラグやカップ、カーテン、ピローケース。
「色々あって欲しくなっちゃうね。」
「本当だね。」二人のお揃いのマグカップでも買って使おうよ。うん。どれにしようか。
二人でお揃いの何か買うなんてこっぱずかしいけど、それもまた楽しいものだね。私は彼の楽しそうな横顔を盗み見て、少しだけ目尻を下げた。

時の流れは人の意思と反した流れ方をする。早くと望むときは遅く、遅くと望むときは早く。
もっと傍に居たいけど、それは無理らしいわ。ちょっと遠く離れた家に帰らなきゃいけない。
電車の中で今日のこと、今日の二人を振り返る。
「楽しかったね。」
「うん、お土産も買えて良かったよね。」
「今度それでコーヒー入れてあげる。」
「ありがとう。」きゅっと握った手は少し汗ばんで、解きたくなったけど離したくなかった。幸せはコーヒーの味なのかななんて思ったりしちゃってさ。
他にも、このときのあそこにいたカップルがどうのこうの、って下らない話を続けてた。それが帰宅時の私たちの楽しみ方だから。
それでもこの時間の流れも無情なの。すぐに終着駅で別れなきゃいけない。
「今日はありがとう。」そう言って彼は私に小さなキスを降らせた。
「こちらこそありがとう。」繋がっていた手はあと数分で離れ離れになってしまうけれど、声はまだ繋がっているから悲しまないわ。
「またね。」どちらともなく交わした次の約束は、今日彼が食べたソーダのような甘ったるい味がした。

先延ばしじゃなくて約束は果たされますようにって願いながら、私は家でもアイスキャンデーを口に放り入れた。