黒猫の前世の記憶は地上の軌跡

欠伸をしながら下から見上げる黒猫を
人間はどう思っているのかしら?
ふと疑問に思っただけだけど
答えてくれる人はいるかしら。

華奢な身体をうねらせて、
グレーの毛並みは輝いている、
そんな猫には首にプレート添えて
縛り付けているのでしょう?

でも私は楽よね、
薄汚い黒い毛並みで誰も拾わない。
結果私には誰よりも自由があって
誰よりも楽しく生きている。


地上数十糎(センチ)から眺める景色は
それはそれで趣深いの。
見上げる空なんて人間よりも
大きく見えるんだから羨ましいでしょ。

もうちょっとだけ高いところから
空とこの風を感じていたくて
そこら辺の塀に登ってみたけど、
ああやっぱりその景色も甘美よね。

この黒猫のように薄汚れた塀は、
比べものにならないような賑やかな通りの裏に
申し訳なさそうに存在する。
貴方の方が先客なんでしょう?

それなら堂々としてなさいよ、
そうじゃないと私も心地良く居られないわ。
此処は巷で話題の
ツンデレとやらを演じてみるの。


あの大きかった頃だって私は、
狭い路地も人気のない道も好きだった。
終わりはない無限ループな路地構成に、
心躍らせていたんだもの。

今はもっと狭隘(きょうあい)な場所も行けるわ、
って誰に対してだか自慢する。
干してある魚だって
気軽に盗めちゃいそうじゃない?


森の木のように乱立する人の足を
踊りながらかい潜(くぐ)る。
ちょっとだけ見上げた先には、
春と称したハナビラと楽しそうな顔。

羨ましいなんて思ってはないわ、
だけど鼻先に付いた桃色の匂いが
こっちへおいでと誘ってるんだもの。
少しくらい良いわよねえ?


地上から数十糎のところから臨む。
大きく見える木もまた良い感じね、
近くから見るのも好きだけど、
この場所からの景色も悪くないのよ。