いつものように生徒会室でのんびり過ごす放課後。そのときドアがノックされ、入ってきたのは校長だった。
「校長!?どうしたんですか?」
生徒会会長である柊が問いかける。何か不味いことでもしたのだろうか。
「そんな不安そうな顔をするな。ただ、今度転校生が来るということを伝えにきただけだよ。」
校長は紳士的な人で、見た目は優しいダンディーなおじさんだ。
「「転校生!?」」
「で、俺らでおもてなしでもするんですか?」
相原が穏やかに言う。
「ざっくり言うとそういうことだね。」
「ざっくりすぎやろ……」
椎名がボソッと呟く。激しく同意。
「歓迎会でも開いてくれ。ああそう、因みにクラスは桐山くんと椎名くんと同じだから。」
「まさかの。」
ちょっと凹み気味の柊が言う。「どんな子なんやろ〜」と結奈と話すのは無論、椎名。
「じゃあどんな歓迎会やろうか。」
相原は相変わらずおっとりして言った。それに葛城が答えた。
「やっぱり歓迎会といえば、どこかに行ってバイキングとかでしょう。」
……ってお前、学年違うだろ!
そんなこと誰も気にせずに続ける。
「それもええやんな。まあ食べ物じゃなくても良いと思うけど。」
「某●ズニーランドとか?」
良い!と結奈が反応する。好きだからな、結奈。
……でも高くねぇ?(手で金マーク作って)
「やっぱり高いし、ちょっと遠いかもな。」
「一人のための歓迎会でそこまでやる必要無いしね。」
柊と相原がうんうん、と頷きながら言った。
「じゃあ、やっぱりこの部屋でお菓子でも食べるか?」
「結局?いつもと変わらないじゃん。」
俺は椎名の笑いながらの問いに答えた。そうかもな、という椎名の返事。
「でもそれが私たちらしくて良いのかもね。」
結奈も満足げに肯く。
「じゃあそうしよう。装飾もして。」
柊が言うと、皆頷いた。
転校生が来る当日。柊に「転校生に来るように呼んだから、装飾頼む」と言われ、オレや他の人は生徒会室に来ている。
「こっちにそれ置いて。」
「これはー?」
様々な声が飛ぶ。良くあるちゃちな紙の輪っかとか、風船とか、そんなものを飾っていく。
嫌いじゃないけどね、こういう作業。
「桜ちゃん、来るのかな?」
「来るだろう。」
転校生は永井桜という名前らしい。見た目はそこそこ可愛い女の子みたいだ。椎名によると、ちょっと警戒心が強くてあんまり喋れ無かっただと。
……お前も十分警戒心強いけどなー
「じゃあ、今日は楽しみますか。」
「ほな、放課後。」
ざっと装飾してしまうとお昼終了のチャイムが鳴ったので、オレたちは解散した。
コンコン。
扉が重い音で鳴る。きっと今回のお客様だろう。柊が「どうぞ入って」と言うのと同時に、椎名が扉を開ける。どうぞ、と執事のような(?)仕草で彼女を部屋に入れさせた。
「えっと、お願いします。」
消え入りそうな声で挨拶をし、ぺこりと頭を下げる。結奈がニコッと笑ってそれに応えた。
「堅くならないでいいよ!宜しくね」
その笑顔に釣られたか、桜ちゃんもぎこちなく笑った。
「ささ、とりあえず挨拶しちゃおう。俺は桐山柊、生徒会会長ね。」
「相原海斗です。生徒会副会長なの。」
「椎名椋や、生徒会会計やってる。」
「葛城友也です、高一で生徒会書記です!」
「中本結奈、仲良くしてねー」
「新垣隼、宜しく。」
それぞれのキャラとテンションで挨拶し終えると、その迫力に気後れしながら桜ちゃんも挨拶する。
「永井桜です。」
「よし、桜ちゃん楽しんで帰ってな。皆お菓子出せお菓子!」
……お前はやらんのか柊!
という不満なんて口にせずに(というか楽しいから)皆それぞれ机にお菓子を出す。トランプやら王道な王様ゲームのための割り箸なども。お菓子も、高いものからコンビニのお菓子まで様々だ。
「好きなもん食べ?」
ブレない笑顔で椎名が桜ちゃんに語りかける。彼女はおずおずと頷いた。
「おい椎、桜ちゃん物怖じしてんだろ」
「ん?ごめんごめん、俺怪しい者じゃないし。」
椎名の得意技、おちゃらけて濁す。でもそのお陰か、ほんの少しだけ桜ちゃんは笑ってくれた。
葛城が突然椎名に駆け寄る。
「クッキー作ってきたんで、食べて下さい!あ、皆もどうぞ。」
……お前は女子か!オレらはついでか!
「ありがとう。」
「俺も作ってきたんだぜ?」
柊もタッパーを取り出して配る。結奈は周りに花を飛ばしながら、桜ちゃんに言った。
「柊くんの作るお菓子、凄く美味しいんだよ!」
「本当?ありがとうございます。」
彼女はそう言うと、一口パクッと食べたら目を丸くした。「美味しい!」という声が心なしか弾んでいる。
「それは良かった。」
そういう柊も嬉しそうに口元を綻ばせている。そんな彼が持つタッパーからお菓子を幾つも持っていく男が。
「相原。」
「ふわぁいっ!」
口に詰め込みながらの返事。
……お前何してんだ、いつもの貴公子面はどうしたよ。
「ズルい!私もー」
結奈が負けじと食べる。
……お前ら、メインが食べないでどうするよ。
「「いいの。」」
……いや、良くない。
その後も下校時刻ギリギリ(18時)までワイワイ騒いだ。
トランプではオレと椎名が負けて十八番を歌わされたり。王様ゲームも柊が物真似したり、結奈がパシりになったり。
「楽しかったなー。」
柊の声に葛城が応える。
「ほんまですわ。」
「装飾の片付けは明日でいっか。」
「もう時間だもんな、じゃあ解散!」
柊の一声でオレたちはそれぞれ帰路につく。オレと結奈と桜ちゃんと相原は同じ方向で一緒に、柊は一人で、椎名と葛城は二人で帰った。
「楽しかった、桜ちゃん?」
「うん、楽しかった。」
始めよりも大分砕けた調子になった彼女は、楽しそうにしていた。
「それは良かった。あんな変なキャラの奴らだけど、仲良くしてやってね。」
「隼だって最近生徒会に入って来たばっかりじゃん。」
結奈のツッコミに、思わずたじろぐ。何だかずっと一緒に居る気でいた。
「これから宜しくね。」
そう言った桜ちゃんの笑顔は、はっとするような表情だった。