冬星
初めての冬に見た星は、
感嘆の溜め息を漏らすほど美しい。
 
 
 
 
見慣れた空とは違うような
そんな表情をした今日の空。
「ああ、こんな表情もするのか。」
初めて知ったかのように納得する。
 
なんとも言えないような真っ暗闇に、
ポツン、ポツンと一つ一つが
遠慮しながら主張していて、
そのコントラディクション(矛盾)に
思わず「うわあ……」と零した。
 
 
開けた窓からは氷点下の風、
それはまるで僕の気持ちも星空も
凍らせてとっておいてくれそうな冷たさで。
僕は不思議と寒くは無かった。
 
くるりと身体を回転させ、
窓から顔を覗かせ、空を見る。
「昔の場所からはこんなの見えなかった」と独りごちて。
 
 
おままごとのように"チャチ"な世界だけど、
思うより素敵かもしれないよと
自分自身に笑って言った。
 
初めての場所で初めての冬。
頬についと伝う寂しさの粒が、
消えてなくなる前に固体になればいいのにと思った。
その塩辛いレンズには、満天の星空は映されているだろうか。
 
 
「もう一度」と窓を開ける。
冷たい風は容赦なく自室を翔(かけ)る。
それの温度は部屋の温度に溶けて、
僕の悲しさは外の景色に溶けた。
 
初の白い羽が舞うには少し遅いような時期だけれど、
初めての場所で初めての雪も
見れたらいいのにと思う。
 
 
 
あの日手を取った温もりは無くて、
あの日見た微かな星空も無くて、
あの日見えなかった景色も無くて、
あの日の記憶も無くて。
今じゃハッキリとした満天の星空が
ただ広がるばかりだけど、
僕はきっと幸せなんだろう。
 
たったそれだけのことだけど
この空はそう、
そんな気分にさせる。
淡く瞬く、生命に似た輝きたちは。
 
 
再び窓を開ければ、
冬の匂いと共に
消えたはずの記憶が戻ってくる。