初めての依頼から一週間、あれから他の生徒会役員は忙しくしていた。何たって今は春、そう新入生への対応で忙しいのだ。
……なら、レンジャーなんてやらなきゃいいのに。
なんて言ってるわけにはいかないので、オレたちは生徒会室に集まっていた。
「今日の依頼は?」
「直接告白する勇気がないので、手紙を渡して下さい、だって。やるしかないよねぇ、しーちゃん?」
相原はひらひらと手紙を揺らした。問いかけられた椎名は頷く。柊もそれに同調した。
「渡す相手のクラスは?」
「1の3、安西。」
相原が読み上げると、葛城が声を上げた。
「ほな、俺が行きましょうか。」
「頼む。で、実はあと二通同じような依頼があるんだ。片方は2の2、新橋。もう片方は3の5、斎藤。」
相原はオレを見ると言った。
「しーちゃんと新垣くんは3年生の方をお願い出来るかな。柊くんと結奈ちゃんは2年生を。俺は待って……」
「何でお前は待つねんっ!」
椎名から鋭いツッコミが入る。
ナイス椎名!オレもそれ言いたかった!
「いやあ、二人ずつがいいじゃん?」
「まあ、面倒やしええけども。」
……良いんだ!?
「じゃあ、宜しく。」
「って、何俺に代わって主導権握ってんの?別に振り分けはどうでも良いけど。」
……良いんだ!?(二回目)
椎名がカタリと音を立て、椅子から立ち上がると手紙を受け取った。一つを葛城に渡す。
「友也、渡すだけだからってヘマすんなよ?」
「しませんよ、椎名さんってば変なこと言いはる〜」
くすくすと笑ってから、葛城はその手紙をしまった。
「よく来るのか、こういう依頼。」
「うん、殆どこんなのだよ。」
疑問をぶつけたオレに、隣で寛いでいた結奈が答えた。
「へぇ……」
「それがまあ、中身知っちゃった時が大変やねん。」
「相手が自分、なんてこともたまにあるもんな、椋ちゃんは。」
椎名は困ったように笑う。本当に困っているようだ。
「それがしかもおと、」
「ストーップ!」
「何で止めるんだよ。」
ぶすっとした柊に、一度溜め息をついた椎名は言った。
「ソッチの気が無い人からしたら、そんな話聞きたくないやろが。変なアピールするなよ。」
……大丈夫、察しはついてる。
だから、何で共学なのにそんな風にモテるんだよ!
「でも彼女居ないよねえ。」
結奈は心なしか嬉しそうに言った。
「俺の話はもう良いってば。」
ワイワイと言い争う数人を横目に、オレは溜め息をついた。
「じゃあ、行ってきます。」
オレは柊にそう声をかけると、椎名と共に3年生の教室に。
「斎藤先輩、いらっしゃいますか?」
「斎藤ー」
「何の用?」
見た目は普通だけどスポーツ出来そう。きっとモテるんだろうなっていう雰囲気の人だった。
「先輩にお届け物です。因みに返品はききません。」
不敵な笑みを浮かべて椎名は言い切ると、「では失礼します」と早々に立ち去ってしまった。慌ててオレも会釈をして立ち去る。
「お前早すぎ。」
「面倒やもん。」
……言い方が意外に子供だ、新発見。
「ヘマもへったくりもない。」
「依頼は渡すだけやもん。」
口を尖らせて言う彼に違和感を覚えつつも、オレはその場を流してしまった。
放課後、早めに生徒会室に入るとそこには、集中して何かの書類を書く生徒会会計がいた。
……会計なのにあそこまでする必要あるのかなあ。
「椎名、少し休んだら?」
「ん、これ終わったらそうするわ。」
辛そうな微笑みに再び違和感を覚える。その違和感を確かめるために、(不意打ちで)額に触れてみる。
「熱っ!お前、我慢しすぎだろ!」
一通り怒鳴っていると、見たことの無いくらいしょんぼりした顔が。今までクールな喰えない顔ばかりだったので拍子抜けした。この表情は素らしい。
……なんだ、人間らしいとこもあるじゃん。
今まで如何に自分が椎名を胡散臭いと見てきたかが分かる、今のオレの感情。
「ごめん、迷惑かける。」
「いい、そんな言葉いらねぇ。」
「ありがと。」
目を微かに細めて笑うと、ゆっくり目を閉じた。額の上に濡れタオルを乗せてやれば、幾分薄らいだ苦痛の表情。
オレはそっとその髪を梳いてみた。柔らかい。
「無茶しやがって。」
「うわわ、どないしはったんですか!?」
入ってきた瞬間大声上げて近寄る葛城を静かにさせる。
「熱あるんだ。休ませてやってくれ。」
そう言うと、申し訳なさそうに目尻を下げる。
「気付かなかった、新垣さんありがとうございます。」
……お前、犬みたいだな。
言いたくなるのを必死に堪えながら「いや」と返事をする。
葛城は突然「よし!」と言うと、簡易キッチン(生徒会室にはこんなものも併設されている。他には小さなシャワー室、仮眠室。)に消えた。
オレは椎名を仮眠室に運ぼうと思って担ぎ上げた。
「軽すぎ、お前。」
背は全然違うのに、ひょいと持ち上げられるような軽さ。本当に食べているのか心配になるほどだ。
「椎名さん、新垣さん、お茶淹れましたよ。椎名さん……無理が祟りましたか。」
「そうみたいだな。そういや葛城は依頼遂行したのか?」
「当たり前やないですか!そういう新垣さんたちもやったみたいですね。」
ああ、と返事すれば、葛城は柔らかく笑って椎名を見た。
「ほんまは、もう一通手紙あったんです。椎名さん宛に。これ渡しておいて下さいね。」
「ラブレター?」
「さあ?でも俺たちは恋文専用郵便屋ですから。」
今はね、と付け加えると、彼は「お大事に」とぽつんと呟き帰っていった。
「大事にされてんだな。」
羨ましいくらいに。
オレの言葉は宙に漂っていた。