Leben
静かな大広間に足音が響く。
道化師(ピエロ)の仮面を風に乗せて、
男にふと笑った。
 
 
道化師「御前はそれで良いのか?」
 
男「どういうことだ?」
 
道化師「御前はこのままに身を任せて、それで良いのか?後悔はしないと?」
男「このまま死んで、か?」
 
男は声高らかに笑った。
道化師は其の姿を見、首を傾げる。
 
男「俺は居ない方が良いのだろう?それならばこれで良いのだ」
 
道化師「あの者たちに別れも告げぬと?」
男「告げぬな。彼らが要らないと言えば、俺は」
 
道化師「美しい自己犠牲、さらば御前の願い叶えてやろう」
 
 
道化師の仮面の隙間から見える素は美しく笑い、
男の心臓の上を指でピンと弾いた。
 
 
男「汚いエゴだ」
 
道化師「御前が言うなら、真実。我と共に来い、名も無き男」
男「無論」
 
男が背後を振り返れば、
大きな扉は全て開かれ
青々とした木々に二羽の鳥が戯れている姿が見えた。
 
 
男「これで全て善しとなるのだ」
 
 
男と道化師は道無き道を往く。
後ろを見てももう、懐かしく思われる景色はない。
二人をもう、見える者はない。
 
 
 
道化師「汝が為に彼の者は死んだと言われれば、
汝はどう思うだろうか……?」
 
道化師は幸せそうな者たちの上で
黒い灰を降らした。