奇抜な仮面(ペルソナ)が目を引くような

そんな道化師(クラウン)は男(アニムス)を連れ行く。

 

宮殿には嫌味な妃と

美しい歌姫(ディーヴァ)。

 

道化師「ご覧なさい、

眼前の奇蹟を。

ご覧なさい、

眼前の悪夢を。」

 

 

女(アニマ)の首が斬(と)ぶ。

見えない刃の軌道は残像にて残り、

見た姿を慙愧(ざんき)する程に鋭い。

女「まるで貴女は、悪女(サロメ)のようじゃないか」

 

悪女「長い髪を振り撒いて、

御前は絶世の美女なのだろう。

兵士も羨み目が潰れるというよ。

ならば御前、

きっとかづかれたのだね。」

盲目の悪女はほくそ笑む。

 

 

道化師「女の首は笑って言う。

『嗚呼、貴女は不幸だ』と。」

 

男「悪女を捕らえぬのか。」

 

道化師「捕らえてどうするのか。

青天の霹靂に屈して御前は

悪女の首をも斬(と)ばす気か？」

心を暗視するように道化師は詰めた。

 

 

悪女は憤怒し嵐を熾(おこ)す。

風は駆け抜け、

装飾用電灯(シャンデリア)は眼底を震わすくらいに

音を立て落ちた。

 

道化師は混沌とした世界を

徐々に掻き混ぜ。

道化師「御前は知る由もない、

悪女の運命など

御前が決然と下せるものではない。」

 

悪女の首が残月を描いて

ほとりと落ちた。

道化師「林檎のような熟れた赤が

御前の脳裡(のうり)に焼き付くだろな。

眼球の御前を見詰める姿が。」

 

男は一歩二歩下がる。

爪弾く弦の切れて、男は悲鳴を上げた。

 

 

道化師「さあ

己の居るべき場所に帰りたまえ。」

道化師は顔を伏せ、仮面を浮かせて去っていく。

一人残された男、

見えぬ楔で繋がれ帰れず。

 

 

男「盲目の悪女、

御前の髪が絡まり離れぬが。

御前のも美しいというのに。」

 

 

——見えぬ嫉妬に

見える首と。

見えぬ刃に

見える運命(ミラ)と。

石灰化した身体は雨降る硝子に混じった。——