Rufe
道化師(ピエロ)がゆっくりと
足を引きずりながらやってくる。
 
暗い、湿った、
けれどどこか豪華な古びた洋館。
 
道化師「男は情けないような歌口ずさみ
零れかけた皿の平衡を正す。
身体の歪みは更に非道く
案配を望むも空しい。」
 
男「空言で交わした
己の僻事、
避けるべきはよもや
この泰平の為の涙。」
 
 
道化師「口にしてはいけないと
悪魔は何度言えば判るだろうか?
脳の散った骸は
息のような歌を紡いで。」
 
――「Komme hier」
と不思議に異国語で
カタリと小首を傾げた道化師。
戯曲の大詰め(カタストロフィ)は
緞帳(カーテン)に遮られ終わる。――
 
――蝋の垂れた灯火が
哀れな布切れに燃え移れば、
瞬く間に世界は紅く。
愚か者の眉間を貫いた
回転式拳銃(リボルヴァー)の弾すら、
灼熱は呑み込んだ。――
 
 
螺旋階段の上から覗く顔は
よく見知った鏡の向こう、
嘲るような口角が目印(サイン)。
男「彼(あ)の名は己ではなく
堕天使(ルシファー)だとでも言うのか。」
 
堕天使『背に背負った翼は重く、
飛ぶには少々厄介物である故
千切って御前にくれてやろう。』
男「見え透いた魂胆に惑うのは故意。」
 
道化師「純白の羽根は血染めの、
仮初めの美しさを見せる。」
愚かな男は道化師に導かれ
遠く世の果てへの旅路を往く。
 
 
堕天使『風刺画(カリカチュア)に見せた過去、
賛歌(カロル)に魅せた未来。
賢者の掌で転がりゆく。』