完全にパニックだ。何でオレがそんなレンジャーごっこに付き合わされるんだ。
「ほら、ぼーっとしてないで行くよ!」
結奈に引っ張られてオレは泣く泣く生徒会室を出た。
なんともベタな体育館裏。喧嘩に強い椎名とオレが前線、次に強い葛城と柊が後ろで待機している。
(良くバレないよな……)
まだついてきてない頭を、仕方ないからと納得させる。
横を見れば、明らかに楽しんだ様子の椎名。
「なあ、いつ来るん……」
「静かに!」
椎名が指差す先に、駒沢くんとやらと数人の悪そうな男子が。どう考えたってリンチの場面だよこれ。
「んじゃ、行こうか。」
ぽつりと柊ことリーダーが出撃命令を出した。
皆して色の付いたレンジャー仮面(因みに、柊はレッド、副会長はグリーン、葛城はオレンジ、結奈はブルー、オレはパープル)と思いきや、椎名だけ真っ白な狐の仮面。なんで?と思いつつも後回し。
「ぼーっとすんなや、行くで。」
「お、おう。」
狐の仮面に黒髪って似合うな、なんて場違いに思った。ますます胡散臭い。
「や、やめてくださいっ」
駒沢のか細い声が響く。これはターゲットになりやすいタイプだな、なんて呑気に考えながら走っていった。
「なあお前ら、何してんの?」
訛りの無い標準語ってこんなに怖いのか……椎名は薄ら笑いを浮かべて、ついでに声に感情も消して言った。これが、あの関西弁で面白優しいキャラと同一人物だなんて、信じられない。
オレも置いてけぼりを喰らうわけにはいかないので、同じように他の奴を脅した。
「何やってんだよ、離してやれ。」
普段からこんなんだけどさ、オレ!
「誰だよ、変な仮面付けちゃってよ。邪魔すんなっ」
いきなり殴りかかってくる下っ端たち。椎名はリーダー格を相手してる。
「名乗る筋合いもない。」
「ホワイト、加勢しましょうか?」
「必要無いな。連れていってくれ」
了解、と葛城ことオレンジが言って、駒沢を連れ出した。それを横目で見たオレたちは、遠慮なく(?)相手を潰したのだった。
「すみませんでした!」
全員が土下座をして謝り帰っていった後、オレたちは生徒会室に戻ってきた。
「しーくんも隼もお疲れ様。カッコ良かったよ。」
結奈は飲み物を手渡してくれた。オレにはちょっと甘めのミルクティー。椎名には微糖のコーヒー。
……なんかオレ餓鬼だな。
ちょっとだけ凹んだ。
「ありがとう。」
椎名と葛城の訛りは元に戻っている。
「椎名も葛城も、なんでさっきは普通に標準語だったんだ?」
「顔隠してるのに、東京で関西弁喋ってたら人物特定されやすいんですわ。せやから、バレへんように標準語にしてるんです。」
「そっか。なんか違和感アリアリだな、それはそれで。」
「かもな。でも新鮮やろ?俺じゃないみたいで。」
……なんか、今腹立った!
その不敵な笑みで言われると腹立つ。図星なのに。
「嘘や、そんな敵意剥き出しにすんなよ。」
柔らかい余裕の笑み。コイツには適わないと思った。
「はじめの時より、ここに慣れたろ。こんな仕事を実はしてるんだ、俺たちは。」
柊はオレに向かって言った。きっと楽しいんだろう、仕事は大変でも仲間が良い仲間だ。
オレも笑って返した。
「今更やめますなんて言えないんだろう?」
「おう。なら宜しくな。」
口々に宜しくと言われ、少々照れくさく。オレはふいっと横を向いて頷いた。
横目で見た椎名は、葛城と嬉しそうに微笑んでいた。
「あれれ、皆揃ってる。あ、依頼行ってくれた?」
「おお、行ったよ。」
生徒会室のドアが開き、入ってきたのは不在中だった副会長、相原海斗(あいはらかいと)。
貴公子的ポジションで、紳士。たまにド天然を発動させることも。背は椎名よりも少し高く、女子にかなり人気だ。
「ありがとう。あれ、しーちゃん怪我してる。」
「へ?ああ、大丈夫。」
驚いたように目を丸めてから、頬を軽く掻く。本当だ、頬にひっかき傷。
オレは無意識に顔を歪めていたようだ。パシンと軽く叩かれる。
「なんであんたがそんな顔すんねん。」
「椎名さん、絆創膏ありますよ!」
「さんきゅ、友也。」
椎名に表情を指摘されたのが悔しくて、オレはそっぽを向いた。
……大人気ねぇな、オレ。
仲間内でワイワイしているなかに入れないオレに気付いた結奈は、隣に座って言った。
「なんで隼遠慮してるの?らしくない」
オレだって知らないよ、なんか入りがたいんだよ。
「そうだそうだ、隼らしくない!」
柊までひょっこりとオレの横から顔を出して言う。何なんだコイツら。
「何なんだと言われれば、白春レンジャーでしょ。貴方の日常を楽しいものに。」
「「それが白春レンジャー!」」
……疑問に思ったオレがいけませんでしたすみません。
コイツら、本当に生徒会上層部か?