生徒会室(side:niigaki)

生徒会会長に言われて行った先の生徒会室に居たのは、疲れた顔で眠っている生徒会会計の人だった。 


襟足は軽く結んである艶やかな赤混じりの黒髪に、透き通るような白い肌。窮屈そうに折り畳まれた、細身で長身な身体。赤い小さな唇、そして長い睫毛は、噂になるほどな切れ長の目を隠していて。 
椎名椋(しいなりょう)というこの男、そう言えば同じ生徒会メンバーのオレの幼なじみが好きだと言っていたような。友達も何人か言っていた。 
頭は良い、ルックスも良い、性格も良し、方言フェチ(女性に多い)にとっては嬉しい関西弁というオプション付き。真面目に見えて、実は面白い上に優しいなんてそんな、とんだ紳士だ。 
でもオレは、胡散臭いと思った。話したことは無かったが、すれ違ったときの笑顔が胡散臭かった。 
そりゃあモテるよ、コイツみたいに作ってたらさ。 

「あ、椎名さん寝てはるんですか?」 
後ろから入ってきたのは、生徒会書記の葛城友也(かつらぎゆうや)。唯一の高校一年生メンバーだ。 
明るめの茶髪にいくつかのピアス、一見すると不良に見えるが全然違う。かなり礼儀のなっている後輩だ。彼も結構整った顔をしていて、割と今どきな感じで京都出身らしい。そして椎名を尊敬していて、よく一緒にいる。 
「新垣先輩がどんな用事なんですか?」 
オレの名前は新垣隼(にいがきしゅん)。何にも属さない、部活にも入らないという超暇人だ。 
「生徒会長に言われてな。」 
「生徒会長もうすぐで来はると思いますよ。」 
彼はにっこり笑うと、椎名を起こしにかかった。 
「椎名さん、起きて下さい。後少しだけやってしまいましょう。」 
「ん、おはよう、友也。俺、どれくらい寝てた?」 
「20分だけですよ。」 
そっか、と疲れたように笑うと、椎名はこっちを見た。眉間に若干の皺が寄る。 
「お客さんが来てたんやな。会長は未だなのか?」 
「はい、もう少しで来そうですけど。」 
「悪いね、待たせて。」 
葛城はさっと立ち上がると、再び笑顔で言った。 
「俺、お茶入れてきますわ!」 
「ありがとう。」 
椎名は柔らかく笑った。 
「美味しいんやで、友也の淹れるお茶。日本茶も紅茶も淹れるのが上手いねん。」 
「そうなんですか。」 
「楽にして待っててな。俺仕事してるけど、何かあったら話しかけてもええし。」 
そう言って椎名はオレに背を向けた。カタカタとキーボードを鳴らす。白くて長い指が、流れるようにキー上を動いた。 

その姿を見ていたオレの前に、葛城がお茶を置いた。 
「ふふ、新垣さんも見惚れてはりますね?」 
爆笑を堪えてるような表情でオレに問いかけた。むっとした声で訂正しておく。 
「そんなわけないだろう。」 
「そうですか、残念やな。」 
なんで、と言おうとしたら、椎名に先を越されてしまった。 
「何か知らんけど傷付いたわー」 
ケラケラと明るく笑っている。全然傷付いた感じじゃないだろうが。 
オレがその明るさに怯んでいると、生徒会室のドアが開いた。 

「しーくん!」 
「椋ちゃん、ただいま。」 
先に嬉しそうな声で入ってきた女の子が、中本結奈(なかもとゆいな)。オレの幼なじみだ。 
長い柔らかな茶髪に、クリクリとした大きい目。小さな所為で保護欲が擽られる。こいつもそこそこモテる。(因みに、この学校での"モテる"は、異性とか同性とか関係無い。共学なのに!確かに男子多いけど!) 
結奈の後に入ってきたのは、生徒会会長の桐山柊(きりやましゅう)。椎名や葛城とはまた違った意味でテンションが高い。でもオレの友達だ。見た目はパッとしないが、話術に長けていて、その魅力は多分椎名に劣らないだろう。一緒に居て笑いが絶えないから、ずっと居たいと思えるくらいだ。 
「おかえり、結奈、柊」 
「あれ、副会長さんはまだなんですね」 
「先生に呼び出されてるよ」 
結奈はそう言うと、ソファに座るオレに気付いたようでこっちに来た。 
「隼、どしたの?」 
「あんたんとこの会長さんに呼ばれたんだよ。で?」 
目線を柊まで持っていけば、奴は笑って言った。 
「おう、お前を生徒会役員にしたい。つってもポスト空いてないから、結奈と同じ補佐役だけどな」 
「何で急に……」 
「やるのか、やらないのか?言ってくれないと俺らの企業秘密は言えないんだ」 
気付けば、皆の視線がこちらを向いている。うう、辛い。 
「暇だから別に良いけど、何?」 
「隼ならやってくれると思った!早速だけど、実際にやりながら説明するわ。椋ちゃん、今日の依頼は?」 

……依頼? 

「今日のは……苛められてます、助けて下さい、やって。ウチのクラスの駒沢やんか。」 
「最近恋愛と喧嘩や苛めばっかりやないですか。」 
「仕方ない、やるのが何でも屋"白春(はくしゅん)レンジャー"だからな。」 

……白春レンジャー? 

若干頭がパンクしそうになっていると、椎名がふっと笑った。 
「新垣が頭パンクしとる。」 
「白春レンジャーってのはね、この学校の安全を守る生徒会上層部の機密組織なんだ。云わば何でも屋。噂は聞いたことあるだろ?生徒は正体を知らない。でも、投書箱に依頼を書き入れれば叶えてくれるっていう。」 
「それがあたしたちなの!」 

……ごめん、全くついていけない。 

「さ、行こうか。呼び出しの時間は?」 
「17時半。あと15分や。」 
「これはあきませんわ。」 

……オレ、もう駄目だわ。