綺麗なピラミッド
僕は、君の為になら自分を犠牲にしても良いと思った。
その横顔が、哀しみで溢れないように。
ずっと僕はそう思ってきたんだ。
心に鍵をして、枷を付けて、海の深く深く、君が潜れないほど深くまで沈めた。君が溺れた川よりも深い場所まで。
僕は、君の為に傍に居てあげた。泣かないようにと。
寂しいときは一緒に居たし、泣きたいときは胸を貸した。楽しいときは一緒に笑って、嬉しいことは言い合った。
一番じゃなくても、二番で居られる自信があるから。
そして僕は君の優しさに甘えた。君はいつまでも優しかった。
否、今も、これからも優しい。
それがどうも僕には合わなくなっているようだ。
 
 
だから僕は君の為に、最後に君の好きな歌声で唄おうと思う。
池に月が砕けたとき、僕は君との約束を破るけど
再び池に月が昇ったときは、君はきっと笑ってる。
きっと、その大きな目を細めて困ったような笑みを浮かべて、謝るんだろう。
でも僕には届かない。僕は世界一綺麗なピラミッドを壊してしまったから。
 
 
僕は僕の為に、僕を犠牲にして。
そしてピラミッドの頂点をちょんとつついた。
ガラガラと大きな音を立てて崩れていくソレが、
僕の枷を外して、海から心を引っ張りあげた挙句、崩れていく涙腺のように思えた。
 
 
今じゃ更地だけど、少しずつ綺麗な線が引かれていくのを、僕は遠目で見ていた。