レンズを向けても
僕はそのシャッターを切れなかった。
青く澄み渡っている空が、
心を鷲掴みにするなんて
昔から分かっていたけれど。
僕はその空に貴方を重ねていたなんて
貴方は思うはずもないでしょう。
そしてただ、
僕がシャッターを切る瞬間を
優しい顔で見つめているんですね。
僕がどんな思いで
レンズ越しの歪み無い空を
自分のものにしようだなんて。
稚拙なデジカメじゃ
貴方の空は映せない。
でも稚拙なレンズで撮し続けた。
けれど貴方と同じなんて無かった。
貴方の空は貴方だけのものだった。
それを否定するかのように、
僕は写真を撮り続けた。
その笑顔が徐々に哀しげに歪んでも、
僕はそれを止めさせる術なんてなく、
代わりに変わり行く空の表情を留めさせる。
景色のどこをとっても綺麗だと思う。
貴方もそうだと笑っていましたね。
その一つ一つから貴方が浮かび上がってくるのです。
でも、僕はシャッターを切れなかった。
綺麗だと思うほど、
貴方を重ねるほど、
写真のような小さい面には収められそうに無かった。
映せば、貴方の見た景色と分からなくなってしまうから。
淡い太陽を僕は隠してしまう。
今日は雲の無い日だった。
やはり雲の僕は傍に居られない
そう実感したから。
一度だけでいい、
貴方の見た世界を僕に見させて下さい。
その夢を、
その空を。
カメラを持つ右手を下ろして、
貴方に向けた。
一度たりとも無い被写体。
冬晴れの空の下
眉を潜めて見上げる姿に、
気付かれないように
シャッターを切った。
景色は撮れない。
人の心も撮れない。
思い出になり得る朧気な姿だけれど
僕は稚拙な空と貴方を
閉じ込めた。