メトロポリタン
大波に呑まれた。
人混みは無情にも流れてゆく。
 
 
 
 
流されるままでいた。
このままどこまででも流されればいい。
黒の無い世界を目の当たりにすれば、
私は全てを失った。
 
泣き疲れても
涙は枯れないらしい。
笑い声がただ、こびり付いている。
 
何故光も闇も見えない世界で、
人々は歩けるのだろうか。
私は首を傾げながら佇んでいた。
 
 
失う方が辛いのか。
忘れる方が辛いのか。
忘れられる方が辛いのか。
伸ばした手が掴んだ答えはどれでも無いのだけど。
 
きっと私は忘れられることが辛い。
それはイコール失うこと。
 
 
本当の別れは、
「さようなら」なんて必要ない。
言うことなど出来ない。
そして貴方の存在が消える。
 
 
黒の無い世界で、
私はどう生きれば良い?
光を吸い込む黒を、
白を作り出す黒を、
手放した私はどうすれば良い?
 
乱れた心に拍車がかかる。
押し潰されそうな苦しみに耐えられるかしら?
下手くそな笑顔作って言ってみる。
 
そうすれば貴方は笑って
戻ってきてくれるだろうか?
……なんて、本当は思っちゃいけないのに。
現実なんて見たくない。
いっそ私も、だなんて思ったり思わなかったり。
 
 
「勝手に殺すなよ」の言葉を待って、
私は思い出も綺麗にしまってある。
直ぐに取り出せる場所に。
輝く宝石箱のような思い出のケース。
埃を被らないうちに早く開けさせて?
 
柔らかい声も、優しい目つきも、
もう一度、と繰り返す。
回したオルゴールは人の雑音に掻き消されて。
ぶつかった衝撃で取り落としてしまえば
最後。
 
嗚呼、次のお別れは
ちゃんと「さよなら」言えるように。
 
 
人はまだ流れてゆく。
足音は騒音でしかなく、
影は忽ちに変わり、
時間と共に去って、
運命と共に散ってゆく。
 
 
大都会の心音。
大都会の正夢。